北朝鮮のミサイルと朝鮮半島の安保環境

国防ジャーナル、1998年11月号
李サング陸軍少領

序文

 90年代後半、北朝鮮の戦略兵器水準は、核が世界5大強国、ミサイルは世界7大強国、化学兵器は世界3大強国に浮上した。北朝鮮が3有(核・化学兵器・ミサイル)を追求する間、3無(核・化学兵器・ミサイル)に座してきた我々は、結果的に最近の北朝鮮のミサイル事態において明確な対応策を提示できないでいる。

 北朝鮮が核保有を否定も肯定もしていない状態を恐れる程度の核能力を真剣に追跡する間、韓国は、米国の核拡散圧力と核の傘に順応し、全ての核能力を捨ててしまい、また北朝鮮が1千km以上のミサイルを飛ばす間、我々は、依然として射程距離180km以上のミサイル生産禁止(MTCR、ミサイル技術統制体制規定)という韓米ミサイル協約に縛られていた。

 従って、危機毎に政府が毎回打ち出す対策というのは、韓米間協議の確認及び強化、米国の情報の傘と核・ミサイルの傘の中に入って行くのみだった。

 今回、北朝鮮が打ち上げた発射体が人工衛星でも、ミサイルでも原理は同一である。重要なのは、北朝鮮が日本は勿論、モンゴル、台湾等、アジア一帯に大量殺傷兵器を飛ばせる程度の中長距離投射能力を既に確保して、それを証明してみせた点において、朝鮮半島周辺国の安保状況は、深刻な局面に直面した。

 特に、北朝鮮が人工衛星(ミサイル)を軌道に進入させるくらい強力なロケットが発射されたにも関わらず、米国の対空情報網に捕捉されなかったのは、米国の情報網に異常があることを立証するものであり、対空中情報を米国に全面的に依存しても良いのかという疑問が提起された。

ミサイルと人工衛星

人工衛星発射場面  人工衛星ロケットとミサイルの構造は、基本的に同一である。ロケットに爆弾を搭載するか、さもなければ人工衛星を搭載するかの差である。即ち、ミサイルの頭部に該当する弾頭に爆弾を積載すればミサイルとなり、衛星を載せれば人工衛星ロケットである。

 ミサイルは、飛行方式により、弾頭ミサイルと巡航(クルーズ)ミサイルに区分され、弾道ミサイルは、ロケットが動力で飛んでいき、巡航ミサイルは、自体の力で飛んでいく。巡航ミサイルは、弾道ミサイルに比し、小型軽量で価格が安い長所があり、極めて低い高度で飛んでいく。

 人工衛星を宇宙軌道に進入させるためには、強力な3段階推進体・精密誘導技術・再突入技術・合金技術等が必要で、これは、ミサイル開発(ICBM)にも適用される。但し、人工衛星は、誘導過程においてより精密性が要求される。

 米国も、50年代末、陸軍と空軍が保有した軍用ミサイルであるバンガード・エクスプローラー・ミサイルを利用し、人工衛星を発射したことがある。北朝鮮が商業的科学用と主張する人工衛星が、軍事戦力面において大きな波を引き起こしたのは、このためである。

 北朝鮮の人工衛星発射が事実と確認されれば、東北アジアの軍事均衡に深刻な影響を及ぼし得る。これは、1千km内外の中距離ミサイル能力の他に何もないと看取された北朝鮮の軍事力が、大陸間弾道弾(ICBM、通常1万km)水準に上がったことが立証され、その射程圏内に日本全域、モンゴル、太平洋の米軍基地までが含まれ、既に中距離弾道ミサイルとみられる射程距離4,300km〜6,000kmのテポドン2号を開発中である。

 北朝鮮のテポドン1号ミサイルは、射程距離1,700km〜2,200kmで、未だに大陸間弾道弾は勿論、射程距離2,500km〜6,000kmの中距離弾道ミサイルに及んでいない。勿論、専門家達は、北朝鮮が中距離弾道ミサイル(IRBM)を開発するには、弾頭容量の増加等、未だに越えなければならない問題が少なくないと指摘している。
 

<表1>南北朝鮮のミサイル現況(資料:ソウル新聞、1998.9.9)
区分韓国北朝鮮
名称玄武テポドン
搭載重量(kg)5001,000
射程距離(km)1801,500〜2,000

 一方、我々は、北朝鮮に比し、大きく劣った地対地ミサイル戦力を保有しているが、米国の牽制、即ち、ミサイル技術統制体制規定(MTCR、純粋な独自開発の場合、300km以内に制限)により射程距離140km(米国産、エイテキムズ)、180km(国産、玄武)の2種のミサイルを保有している。

 特に、「玄武」は、70年代の朴正煕大統領の自主国防政策により開発された「白熊」ミサイルを土台に80年代中盤に改良されたものである。

北朝鮮の戦略兵器水準(ミサイル)

 北朝鮮が実際に人工衛星を打ち上げたのならば、弾道ミサイルと核化学兵器等、北朝鮮の戦略兵器開発水準が予想を超え、相当な水準にあるものと判断される。

 テポドン1号弾道ミサイルが脅威的に評価されるのは、ミサイル自体の威力よりは、核又は化学兵器等の大量殺傷兵器の運搬手段として利用できる可能性のためである。特に、化学兵器の場合、北朝鮮の作戦概念を勘案するとき、可能性が一層高い。北朝鮮は、現在、2,500〜5,000tの化学兵器を保有した世界3位の化学兵器強国である。北朝鮮が保有した各種砲弾の10%、スカッド・ミサイルの弾頭の50〜60%が化学兵器であると推定される。これは、化学兵器が核兵器に比し、非難が小さく、大きな威力を発揮できるためである。スカッド1発に搭載される化学兵器は、0.56tで、被害面積は、50haに該当する。

 テポドン1号の場合、弾頭の大きさはスカッドと似ているため、化学弾頭が搭載される場合、同様の威力を発揮するものとみられる。しかし、テポドン1号に化学兵器を搭載するには、まだ相当な技術的困難があるものと知られている。テポドン1号のミサイル弾頭の直径は、1mに満たないため、小型核弾頭を作らなければ現在の北朝鮮の技術力では、不可能というのが一般的評価である。

 北朝鮮は、94年ジュネーブ核合意以前までに、20kt級原子弾1〜2個を作れるプルトニウム(8〜15kg)を抽出したが、実際の核兵器は作れなかったという。しかし、一部の専門家達は、テポドン1号ミサイル開発等に対して韓米情報当局が過小評価してきたことが、今回、白日の下に晒されたために核及び化学兵器に対する再評価が必要であると考えられる。南北朝鮮の誘導兵器の特性は、<表2>の通りである。
 

<表2>南北朝鮮の誘導武器の特性
武器体系北朝鮮軍の装備韓国軍の装備
地対地短距離
bullet300〜500km
bullet大量殺傷兵器搭載可能
bullet中東地域輸出
bullet180km以下保有
bullet少量保有
bullet正確度高し
中長距離
bullet自主開発能力/技術保有
bullet1,000km開発完了/実戦配置
bullet1,500〜4,000km開発中
bullet正確度悪し
bullet大量殺傷兵器搭載可能
bullet絶対的な劣勢(保有なし)
搭載用空対空
bulletMiG-23/Su-25に最新型装着
bullet自主開発/試験運用
bulletその他の戦闘機は60〜70年型装着
bulletHigh級機種に最新型装着
bulletLow級には60〜70年型装着
bullet海外購買(米国)
空対地(艦)
bulletIl-28戦爆機に対艦STYX装着
bulletAS-7/14自主開発及び試験
bulletHigh級機種に装着
bulletKF-16に対艦用ハープーン装着
bullet自主開発なし
艦対艦(空)
bullet誘導弾艇にSTYX装着
bullet組立生産
bullet性能改善(射程距離延長)努力中
bullet80年代初め短距離開発
bullet90年代ハープーン級ミサイル開発中
bullet駆逐艦、戦闘艦、早警艦装着
防御用短距離
bullet弾頭/推進体等一部自主開発中
bullet精密誘導装置導入
bullet天馬自主開発成功
中長距離
bullet長距離ミサイル組立/模倣生産
bullet長距離ミサイルSA-5保有
bulletナイキ、ホークの老朽化
bullet代替用自主開発計画

 一方、一部の専門家達は、人工衛星論難と関連して、既存の韓米情報等を総合してみると、人工衛星である場合、各種ミステリーがあるという意見を提示している。先ず、米情報収集団は、8月31日、テポドン1号が上空100kmまでしか上がらなかったものと捕捉し、ロケットの推進力も人工衛星を軌道に載せるには力不足であった。北朝鮮が主張する27MHzの符号(旧ソ連が世界最初に打ち上げたスプートニク1号の軌道/周波数とほとんど同一、ロシアは最近まで低周波数を使用した。)が未だに捕捉されていない点である。

 しかし、北朝鮮のミサイル発射を置いて、ミサイルであるだの、人工衛星であるだのという論難の暫定結論は、結局は、ミサイル監視体系のお粗末さと併せて、北朝鮮が人工衛星を発射したということも既にその寿命が尽きたか、始めから軌道に上げることができなかったまま宇宙を漂流するか焼尽した可能性があるということである。ところが、一部の国内の専門家達は、北朝鮮が打ち上げた人工衛星は、極めて小さく(直径20〜30cm、重量20〜30kg)、初歩的な段階水準と予想されており、軌道の最短距離が200km内外であることにより衛生の寿命は、長くて90日程度と見ている。

ミサイル防衛体系

 現在、空中を監視する最も精巧な施設は、空軍傘下の中央防空統制所(MCRC)といえる。問題は、中央防空統制所が航空機を対象にした早期警報施設であるのみで、中・長距離ミサイルまで監視できるシステムではない点である。朝鮮半島と海上で動く戦闘機の速度、高度、移動方向等を捕まえるが、300km程度に上がり、日本列島まで離れ、1,500kmの地点まで離れたミサイルの移動軌跡の把握には、装備能力が及ばない。北朝鮮が主張した発射体の移動軌跡が人工衛星発射が可能な水準なのかを検証するのも難しいのが実状である。

 日本も我々と似たような状況である。日本は、火星探査衛星を作るくらいで、我々より遙かに進んでいるが、宇宙空間を飛んでいる衛星を確認できる水準ではない。米国は、航空宇宙司令部の弾道ミサイル統制所(NCMC)において運用中であるミサイル早期警報衛星や海洋監視衛星、朝鮮半島上空を旋回するKH-12等の諜報衛星等を通して、真偽の有無を確認できる水準である。

 韓米両国は、北朝鮮の地対地ミサイル脅威に対して、94年、駐韓米軍にパトリオット・ミサイル1個大隊を配置しており、韓国型戦域ミサイル防衛(TMD)体制を発展させてきた。この計画によれば、米国がDSP早期警報機及びKH-12等の写真撮影諜報衛星(軍用)、U-2等の偵察機、レーダー等を通して、北朝鮮のスカッド、ノドン1号等のミサイルを発射直後に探知した後、韓国内の目標物に達する前にパトリオット・ミサイルで空中要撃するものである。

 しかし、狭い朝鮮半島において北朝鮮のミサイルが韓国内の目標物に到達するのにかかる時間は5〜6分に過ぎず、韓国型戦域ミサイル防衛(TMD)体制に要撃は、相当な制約を受けるものである。現在、我々が保有している射程距離180kmの「玄武」を京畿北道から発射しても、射程圏域が黄州、谷山線に過ぎず、平壌は射程圏外である。少なくとも300kmあって初めて、平壌と主要北朝鮮軍飛行場(价川、ソクドク等)が射程圏に入ってくる。

 従って、北朝鮮のミサイル戦力が想像外に急進展したのを見ると、米国にミサイル射距離延長が必須的である。米国と去る79年「射程距離180km制限」の約定を破棄してでも、南北朝鮮戦力の不均衡を解消しなければならない。

 我々がミサイル開発時に必ず米国の許諾を受けなければならない国際的義務がない状況において、ミサイルまで米国の傘の下に入る必要はないと判断される。問題は、ミサイル開発技術がないという点である。

 北朝鮮は、近年になって既に2回のミサイル発射経験を蓄積したところである。即ち、去る4月と7月に試験発射したパキスタンのガウリとイランのシャハブ-3ミサイルに技術を2回提供することによって、事実上の試験発射経験を蓄積したものである。

朝鮮半島周辺の安保環境に及ぼす影響

 北朝鮮の発射体が中距離ミサイルなのか、人工衛星なのかは関係なく、この発射体の危険度に対して、韓米日3国間に顕著な認識の差がある。

 米国は、北朝鮮の発射体が太平洋上の全ての米軍基地に到達できるという点を脅威的であると看取しているが、「深刻なもの」とは見ていないような印象である。そういうわけなのか、米国は、既存の対北包容政策を継続推進している。これにより、北朝鮮は、実利を着実に取りそろえている。

 米朝高位級会談において、北朝鮮は、寧辺近隣の地下施設の定期調査、ミサイル会談再開等を米国と合意して、食糧追加支援、経済制裁部分緩和等を受け取った。北朝鮮が国際社会において活動するのに最も大きな障害であった「テロ支援国」解除問題も既に米国と論議することにした。要するに、北朝鮮は、自身の挑発的な行為に対して現在までいかなる「懲罰」を受けておらず、実利を着実に取りそろえているものである。

 反面、日本は、北朝鮮の発射体が日本領空を通過した事実自体だけでも安保に対して深刻な脅威と看取し、軽水炉経費負担を留保し、日本−北朝鮮間の直行路も閉鎖した。日本−北朝鮮の修交会談も中断し、朝総連の対北送金制裁も推進している。「今後50年間、日朝関係は、緊張がなくならないだろう」という小渕首相の言葉から、日本の情緒がいかに深刻なのかを知ることができる。今回のミサイル衝撃により、日本は、再武装を禁止している憲法第9条を迅速に解析し、地域紛争に積極的に参与する方向に防衛政策を修正するものと予想される。

 日本は、現在、各種短距離ミサイルを保有しているのは勿論、射程距離15,000kmに及ぶ衛星発射体であるH-2の自主開発能力を保有しているのみならず、中国も射程距離13,000kmに及ぶ大陸間弾道ミサイルCSS-4をかなり以前に実戦配置してきた。

 政府は、この問題により太陽政策が毀損してはならない点で米国と認識を同じくしているが、対北制裁手段が多くない点で限界に達している。韓米日3国中、日本は、今回の事態により軍備増強を加速する憂慮があり、日本の軍備増強は、中国を刺激し、東北ア一帯を軍備競争の舞台にする憂慮すら生み出している。

我々の対応策

 北朝鮮が太平洋に向けて使用した発射体弾頭に人工衛星を載せたか、載せていないかの議論より、問題の本質は、北朝鮮が中距離ミサイル開発に引き続き、長距離ミサイル発射に成功したという点である。これは、北朝鮮が思えば、韓国全域は言うに及ばず、日本と太平洋の米軍基地まで高性能爆弾を投下できるということを意味する。

 しかし、我々の現実は、前にも一部言及してきたが、北朝鮮全域はさておき平壌まで飛ばせる自主発射体(ミサイル等)を備えることができないという事実である。これは、米国と締結した技術統制体系(MTCR)の了解覚書により、射程距離180km以上のミサイルを開発できないように縛られているためである。

 80年当時、我々が「玄武」ミサイル開発に成功するや、射程距離を規制しなければ、韓国より遅れた北朝鮮のミサイル開発促進等、東北アジアのミサイル開発競争に陥る憂慮があり、規制を行った。

 しかし、今は状況が完全にひっくり返った。我々より遅れた北朝鮮は、旧ソ連のスカッド・ミサイルを改良して、射程距離1,000kmの中距離ミサイル・ノドン1号を開発し、一部は、実戦配置したのに引き続き、今回、1,500kmを越えるミサイル発射試験(人工衛星)を行ったという現実である。

 今まで米国は、北朝鮮のミサイル開発にいかなる影響力も行使することができず、結果的に北朝鮮のミサイル開発は容認した反面、我々の両手と両足はしっかりと縛られた状態となった。結局、四肢を縛っておいて、飛べというのと変わりない。従って、北朝鮮と対峙している現状況において、不充分な戦争環境とミサイル防衛体制を考慮すると、北朝鮮の主要都市と軍事施設が射程圏域に入れられるように、最小300〜500kmの射距離を備えたミサイルを必ず確保しなければならない。米国の安保政策に抱かれて、我々の安保主権をいつまで放棄するというのか。

 最小限の我々の生存は、我々の力で守ってこそ、自主独立主権国家となることができる。

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最終更新日:2003/09/01

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